ラジオからセンチメンタルな曲が流れてくる春。卒業や入学のシーズンということもあって、春は青春ものの小説がたくさん出版される季節らしいですよ。(ちなみに夏はホラー、秋はミステリーが多いんだとか)
物語の季節ということで、ヨコタテLIFEvol.10は、小説家の椙本孝思さんにご登場いただきます。今回はインタビュー形式の若干ライトな感じでお届けします!
今回はヨコタテLIFEにご登場いただき、ありがとうございます!小説家としてご活躍中の椙本さんですが、まずは簡単に自己紹介をお願いできますか?
小説家といっても、純文学からSFまでジャンルはさまざまでして。私は主に「ミステリー」や「サスペンス」系の小説を書くことが多いですね。15年前にデビューして、広告制作会社でコピーライターと兼業していました。5年前に徹夜が辛くなったので脱サラして作家専業になりました。
小説家のデビューとしては、わりと珍しいパターンですね。「第4回啓文堂おすすめ文庫大賞」を受賞された『THE QUIZ』はドラマ化もされていますし、その他にもたくさん面白い作品を発表されている椙本さんですが、小説を書く上で普段から大切にされていることはどんなことですか?
「常識的な生活をする」「ちゃんと生きること」、ですかね。
意外に…と言うと失礼ですが、普通でいらっしゃるんですね。
私の作品は基本的に「常識からズレたところ」を発想の根幹にしています。となると、まずは「常識とはなんぞや」ということを自分自身がちゃんと理解しておかねばならない。だから、いかに普段の生活をちゃんと常識的に送れるかが、ものすごく大事。早寝早起き。毎日掃除する。3食きっちり摂る。徹夜しない。なので、私の生活は超普通ですよ。
僕は生活リズム乱れまくりです(泣) 普通と聞けば聞くほど、手帳の中身が気になります!拝見しても良いですか?
はい、どうぞ。ウィークリーページはこんな風に使ってます↓
お!ヨコ使いですね!椙本さん的には、ヨコの方が書きやすいですか?
ヨコは使いやすいですよー。むしろ、タテより書きやすい。こまごまと改行せずに書けるのが心地いいし、思ったよりもたくさん書けるから。なぜ世の中の手帳はタテに使うものがメインなのか、私的にはそっちのほうがミステリーですよ。
あ、ありがとうございますっ!ヨコ使いの魅力って、なかなか伝わらないんですよね…。でも、そう言っていただけると、なんだか自信がわきます!使い方は、左・中・右の3つのエリアに内容を書き分けている感じですか?
そうです。左は「仕事の予定やTO DO」、真ん中は食べたものや運動などの「ログ」、右は読んだ本や気になった言葉などの「メモ欄」に。手帳は使い続けることが大事だと思っているので、なるべくシンプルに使うようにしています。そういう意味では、手帳よりも「日誌」のほうがイメージが近いかも。
「日誌」ですか?おもしろい発想ですね!
「日記」となると、文章にしないといけない的な義務感が出てしまいがち。でも「日誌」なら、今日の出来事を記すだけでいい。文章にしなくても箇条書きで成立するから、ラクなんですよ。
たしかに、手帳とも日記ともちょっと違う。真ん中のエリアは、まさに箇条書きですよね。筋トレやジョギングもされてて、結構アクティブなんですね、椙本さん。
あ、それね。「体育の時間」って呼んでます。
なんか、学校みたいで楽しそうですね!
そうそう。私の毎日はまさに、「椙本孝思ひとり学校」なんですよ。
「劇団ひとり」みたいな(笑)
小説を書くのは「国語」の時間で、ランニングしたり筋トレしたりするのは「体育」の時間。街に出て人間観察するのは「社会」の時間。一日の終わりに手帳を書くのは「終わりの会」みたいなものですよ。
時間割がつくれちゃいそうですね!あと、気になることひとつ聞いてもいいですか?水曜日のログにある「燻製制作」って、何ですか?
実は、家で燻製をつくるのが趣味なんです。食べ物って、燻製にするとなんでも美味しくなるんですよ。燻製器という密室でおこる完全犯罪級の熟成劇…。あ、ちなみにこの時間は、「家庭科」と呼んでいます。
マンスリーのページはあまり使われてないんですね?
小説家の仕事って、日々のスケジュール管理というよりも、3か月とか半年とか、長いスパンでスケジュールを引くことが多いんです。なので、大まかな予定はマンスリーページよりも巻末についている1yearプロジェクトのほうが使いやすいんですよ。
僕たちの仕事でも、カタログなどボリュームの多い制作物は数か月単位で動きますね。そういう時は、1yearプロジェクトのページがけっこう活躍します。
あと、個人的に便利だと思うのは、ダイナリーの付録ノート。小説を書く際のプロットまとめなどに使っています。
すごい!ビッシリ書かれていますねー!刑事ドラマとかで出てくる人物相関図みたいですね。ちなみに、「プロット」ってどういうものを言うんですか?
プロットとは、物語の大筋みたいなもので、ストーリーの骨子となるもののこと。出版社の編集者と打ち合わせする際も、すべてこの「プロット」をもとに話を進めていきます。つまりは、「プロット=小説の企画書」なんです。
ちなみに、手帳まったく関係ないのですが…。小説の書き方を教えてもらったりできますか?どんな流れでつくるのか興味深いです!
いいですよ。ただ、本気で教えるとなると、たぶん終電がなくなるので、おおまかな流れだけを簡単にご紹介しましょうか。あくまで我流ですが。
<1.ジャンル設定>
SF、ミステリー、サスペンス、青春小説etc。まずはどのジャンルの小説を書きたいかを明確にします。それによって、全体のトーンが変わります。
<2.メインテーマ設定>
タイムトラベルなのか、殺人事件なのか、恋愛なのか、バトルなのかetc.作品で一番何を伝えたいのかを決めます。ジャンルがミステリーなら一つのトリックから世界を作り上げることもあります。
<3.キャラクター設定&舞台設定>
登場人物の性格や設定、舞台となる時代や場所を決めます。私の場合、設定はなるべく細かく決めるようにしています。小説の登場人物から見れば、1冊のなかで描かれるのは長い人生のほんの一瞬。物語には出てこない裏設定まで考えることで、セリフを考える際にその人物が自然と言葉を発してくれます。私小説はともかく、フィクションで書くなら特に重要なステップです。
<4.ストーリー構成>
いわゆるプロットを考えるステップ。4コマ漫画的に、大枠でとらえて考えることも多いです。例えば、こんな感じです→「1.事件発生 → 2.捜査 → 3.転換 → 4.結末」。それをベースとして各シーンを詳細に書き込んでいきます。
「小説を書く」と聞くと「美しい文章を書くことが大事」と思われがちですが、実はその前の段階がとても大事なのです。
セリフって、「考える」というよりも、「自然に出てくる」ものなんですね!勉強になります!そういえば椙本さん、新作を発表されたとお聞きしました。簡単にあらすじを教えてください!
宣伝させてくれるんですか。ありがとうございます。何文字くらいまでなら大丈夫ですか?
そうですね、じゃあ、200文字くらいでお願いします(笑)
3月15日に幻冬舎から新作『へたれ探偵観察日記 たちあがれ、大仏』が発売されました。対人恐怖症の探偵とドS美人心理士の助手が、奈良と大阪を舞台に謎を解くミステリーです。今回は「奈良の大仏を立って歩かせて欲しい」「大阪通天閣の象徴・ビリケン像の暗号を解いて欲しい」というヘンテコな事件に挑戦します。探偵物ですがライトな内容なので、どなた様にも安心してお楽しみいただけます。どうぞよろしくお願いいたします。
おぉ!カウントしてみたら200字ジャスト!文字数を目いっぱい使うなんて、さすが言葉を操る小説家!「たちあがれ、大仏」っていうタイトルがいいですよね。ガン〇ムみたいで。
実は、本作品の登場人物にガン〇ムのキャラをもじった名前がいくつかあるんです。暇つぶしに探してみてください。
隠れた設定を探すのって楽しいですよね。それでは最後にお聞きしたいのですが、椙本さんにとって手帳の魅力とは?
お、結末に向かいましたねー。 何文字くらいなら大丈夫ですか?
そうですね、ではせっかくなので、同じく200字でお願いします!
予定があってもなくても、人には平等に24時間あるわけですから、それだけで手帳を利用する価値は十分にあると思います。燻製をつくったのなら「家庭科」と書けばいいし、お医者さんに行ったら「保健室」と書けばいいし、一日中寝ていたなら「欠席」と書けばいい。手帳って、一年間使えば、その人だけのお話ができると思うんです。まさに人生のプロットですよね。だから、とにかく力まずに「使い続けること」が大事だと思いますね。
またしても200字ジャスト(笑) 原稿用紙半分という文字量が体に染み込んでいるからこそなせる技ですね…。今日は素敵なお話ありがとうございました!執筆のお供に、これからもブラウニー手帳をよろしくお願いします!
《詳細》*************************
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